木曜日の貴公子と幸せなウソ
モヤモヤの正体を探ろうとは思わない。
久しぶりに言葉を交わしているせいだ。
きっと、すぐに消えてくれる。
だってこの人は既婚者。
好きだったけれど、この人は私の事を好きじゃなかった。
遊び相手、ヒマつぶし。
強く強くそう自分に言い聞かせて、テーブルの下でこぶしを作った。
「萌は今、彼氏とかいるの?」
「……さあ、どうでしょう」
「いたらオレと食事なんかしないよな」
……腹立つ。
自分は既婚者だからって。
「……片山さんこそいいんですか?既婚者なのに、女の人と食事だなんて」
「……」
少しトゲのある言い方をしてみたけれど、先輩の表情は変わらない。
しかも華麗にスルー。
ああ、大人なら、スルースキルも身につけろという事ですか。