木曜日の貴公子と幸せなウソ
その名を聞いた途端、心の奥底に封じ込めてあったものが、一気に解放されたような感覚に陥った。
二度とその名を聞きたくなかった。
その姿を見たくなかった。
「……っ!」
「あ、その顔。思い出してくれた?」
顔に出ていたのか、目の前の彼は意地悪くニヤリと笑う。
私は慌てて、両手で頬をおさえた。
な、何で、この人がここにいるわけ……?
彼が首からかけている保護者証には、エミちゃんの名前。
でも、エミちゃんの苗字は『成瀬』ではない。
『片山笑美』と書かれている。
「オレ、婿養子だから、『成瀬』じゃないんだ」
「……あ、そ、そう?」
私が考えている事を読み取ったかのように、彼はそう言った。