木曜日の貴公子と幸せなウソ


「あ、オレは車だから飲めないけど、萌はせっかくだからワインでも飲む?」

「いいえ。明日仕事ですし、別に飲みたい気分でもないです」


余計な事を考えるのはやめて、私はパスタを食べ始めた。

美味しい……。

先輩と一緒じゃなければ、もっと美味しかったかも。


「萌。もう少し楽しそうな顔しなよ。元カレと夕飯食うの、そんなに嫌?」

「園児の父親と2人きりというのが落ち着かないんです」

「ああ、気にするなよ。幼稚園からかなり離れてるし、見られても心配ない」


そう言って、彼はパスタを口に運んだ。

……先輩の思考回路、絶対に壊れていると思うんだけど。

心配ないってどうして言い切るの?


「それよりパスタ、ウマいだろ?」

「……はい」

「良かった」


私の答えを聞いて、先輩はフッと微笑んだ。

メガネをかけているにも関わらず、笑顔は7年前と同じようにあたたかいまま。

胸がズキッという痛みと共に重たくなる。


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