木曜日の貴公子と幸せなウソ
ささやかな復讐……。
それを言うなら、何も言わずに関係を切った事が私のささやかな復讐。
助手席に座ってドアを閉めると、車の中はすごく静かだった。
まるでここだけ、世界から切り離された空間のよう。
先輩はすぐにエンジンをかける事無く、ハンドルに体を預けている。
「……片山さん?」
体調が悪いのかと気になって声をかけてみたけれど、反応はない。
「先輩?大丈夫ですか……?」
心配になって、先輩の背中に触れて揺らしてみた。
「……大丈夫なわけないだろ」
「え……?」
「何度も言い聞かせて、やっと自分の気持ちを封印したっていうのに、何でオレの前に現れるんだよ」
先輩はゆっくりを体を起こした後、私の方に向き直る。
「ダメだ、制御きかねー」
「え、せんぱ……」
私の座っていたシートに片手を置いたかと思ったら、先輩は腰を浮かせる。
逃げ場はどこにもない。
そのまま、先輩と私の唇が重なった。