木曜日の貴公子と幸せなウソ


ささやかな復讐……。

それを言うなら、何も言わずに関係を切った事が私のささやかな復讐。

助手席に座ってドアを閉めると、車の中はすごく静かだった。

まるでここだけ、世界から切り離された空間のよう。

先輩はすぐにエンジンをかける事無く、ハンドルに体を預けている。


「……片山さん?」


体調が悪いのかと気になって声をかけてみたけれど、反応はない。


「先輩?大丈夫ですか……?」


心配になって、先輩の背中に触れて揺らしてみた。


「……大丈夫なわけないだろ」

「え……?」

「何度も言い聞かせて、やっと自分の気持ちを封印したっていうのに、何でオレの前に現れるんだよ」


先輩はゆっくりを体を起こした後、私の方に向き直る。


「ダメだ、制御きかねー」

「え、せんぱ……」


私の座っていたシートに片手を置いたかと思ったら、先輩は腰を浮かせる。

逃げ場はどこにもない。



そのまま、先輩と私の唇が重なった。

< 84 / 207 >

この作品をシェア

pagetop