木曜日の貴公子と幸せなウソ
「……萌」
「それと、折り紙の花をありがとうございました」
「折り紙の花?」
先輩が何か言いかけたのをさえぎって、私は思い出したように言った。
「今朝、エミちゃんが私の所に持ってきてくれました。パパと一緒に折ったんだって、すごく嬉しそうでした」
「ああ、それは……」
「あの子の笑顔を消さないで下さい」
パパと一緒に折ったと話したエミちゃんは本当に嬉しそうだった。
奥さんだって言っていたもの。
なかなか主人と折り紙をする時間がないって。
「……ここでいいです」
高校の時の最寄り駅が目に入り、私はシートベルトを外した。
「いや、家まで送るよ」
「いいんです。そんなの時間のムダです。早く帰って家族の時間を過ごしてください」
これ以上、この人と同じ空間にいたくなかった。