木曜日の貴公子と幸せなウソ


さっき感じた胸のモヤモヤの正体。

キスを拒まなかった理由も同じだ。

だから、私は一刻も早くこの人から離れないといけない。

車が止まると、私はすぐに降りた。


「本当にごちそうさまでした」

「いや、オレの方こそ強引に誘って悪かった」

「いいです。でも、ちゃんと家族の時間を大事にしてくださいね」


私は早口でそう言うと、バタンとドアを閉めて、駅に向かって駆け出した。


……制御できない。

私も同じだ。

でも、制御しなくちゃいけないんだ。

先輩は勝手すぎる。

本命がいるというのに、どうして私の気持ちをかき乱すの?

7年前だって、諦めなくちゃいけないって、自分に言い聞かせて、やっと諦められたというのに。




気持ちを再燃させないで……。


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