木曜日の貴公子と幸せなウソ
第二章
パスケース
「はぁ……。やっぱりないか」
出勤してきて、自分の机の引き出しや机の下を覗きこんでため息をついた。
昨夜はあまり眠れなかった。
眠ろうとして、目を閉じるとキスをしてしまった事を思い出して、激しく後悔した。
犬に噛まれたと思って忘れると宣言したにもかかわらず、私の頭の中で何度もそのシーンがリピートされてしまう。
やはり、拒むべきだった。
拒まなかった自分が悪い。
受け入れてしまった自分に吐き気がする。
「おはよう、萌。いつもより早いんじゃない?」
「あ、おはよう夏江。ねー、昨日、私のパスケース落ちてなかった?」
出勤してきた夏江に聞いてみたけれど、彼女は首を横に振った。
「昨日、私は萌と一緒に幼稚園出たじゃん。職員室に落ちてたら私にもわからないよ」
「あ、そっか……」
夏江と別れた後に、先輩につかまったからその事をすっかり忘れていた。