木曜日の貴公子と幸せなウソ
パスケースがない事に気が付いたのは、先輩の車を降りて、走って向かった駅に着いた時。
改札を通ろうと、パスケースを探したけれど、カバンのいつもの場所にそれはなかった。
走った時に落としたのかもしれないと慌てて、来た道を戻ってみたけれど、それらしいものは落ちていなかった。
戻った時に先輩の車があったらどうしようかと思ったけれど、杞憂にすぎなかった。
もしかしたら幼稚園を出る時にはすでになかったかもしれないと、かすかな希望を持ちながら出勤したのに、やはりここにもなかった。
定期は昨日買ったばかりだったというのに。
可能性がある場所はあと一つ。
先輩の車の中……。
先輩が気が付かなくて、奥さんが先に気が付いたら修羅場は避けられない。
想像しただけで身震いする。