木曜日の貴公子と幸せなウソ


何でこんな風に再会なんかしてしまったのだろう?

二度と会わなくていい相手だったのに……。


「萌がまさか幼稚園の先生になっているとはなー」

「……」

「そっか。ここに来ればまた会えるのか」


何も答えられないでいると、彼はそう言った。

それに反応して顔を上げると、成瀬さん……じゃなくて、片山さんはメガネをかけたところだった。

昔はメガネをかけていなかったのに……。

それくらい長い年月がたってしまったという事だろう。


「じゃあ、また会いに来るよ。サヨナラ、萌センセ」

「……さようなら」


楽しそうに手をヒラヒラと振りながら、階段を降りて行く彼。

私は、しばらくその場から動けなかった。

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