木曜日の貴公子と幸せなウソ


「ごめんね。作品展が近いっていうのに、ボーっとしてばかりで」

「仕方ないよ。2学期は行事が次々とあるんだもん。1年目は地獄かと思ったし」


ハサミで色画用紙を切りながら、夏江は笑った。


年長と年中が2クラスずつで、年少が3クラスの合計7クラスあるこの幼稚園。

同期の夏江と同じ学年を担当する事になって、今年は行事があっても心強い。

職場に気兼ねなく相談できる同期がいるって、本当にありがたい事だ。

近隣の幼稚園は、園児の数も先生の数も多くて、かなり大変だという話を耳にした事もある。

うちの幼稚園は園バスがなく、ほとんどの子が幼稚園の近所に住んでいる。


まあ、だから先輩が簡単に待ち伏せできるような状況なんだけど。


「そういえば今日は木曜日だね。貴公子来るかな?」

「……そうだね」


夏江の何気ない言葉に、ドキッとする。


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