木曜日の貴公子と幸せなウソ


今日はその体操の時間があった。

有坂先生がくる木曜日は、課外活動として降園後にホールで体操教室もやっている。

習い事と同じように、スポーツクラブへの月謝制になるんだけど、先生が熱心に教えてくれるおかげで毎年加入希望者は多い。

対象は年中児から。

有坂先生がいるせいか、木曜日はお母さんたちのお迎えもどこか華やかな気がする。



「ところで、パスケース見つかったの?」

「……ううん」


急に話が変わった。

その夏江の問いかけに力なく首を横に振る。

今日、もし先輩に会った時に返されなかったら、どこかわからない場所に落とした証拠。

だから、今日見つからなかったら帰りに定期を買うつもりでいた。

買ったばかりだから、先輩が持っていてくれたのならいいなぁ……なんてむなしい期待を抱いている。

奥さんに見つかる前に回収して、持っていてくれているよ、みたいな。

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