木曜日の貴公子と幸せなウソ
「この幼稚園に来るとホッとしますよ。子どもたちも先生たちもいつも笑顔で」
「あ、そうですか……。園長先生が聞いたら喜びますよ」
「アハハ。機会があったら言っておきます」
有坂先生はそう言って、ホールの隣にある準備室へと入ってしまった。
体操教室は終わり。
帰る準備をするのだろう。
「……あ、いけない」
ハッと我に返り、自分の今置かれている状況を思い出した。
それと同時に、ホールの奥から作品展の看板を出してきた美雪先生と夏江の姿が目に入る。
「あ、す、すいません!」
「いやいや、有坂先生に上手くごまかしてくれてありがとね。これは運んでおくから、倉庫の鍵かけてきてくれる?」
「あ、はい」
美雪先生はそう言って、倉庫の方を振り返った。
看板を両手で持っているせいで、指させないのだ。