私のパートナー
「……昨日届いたマカロンの数…500個少なかっただろ?」
「っ…は、はい…。」
「あれ、この女のせいだから。」
ん???
この女って…?高田さん?
高田さんは黙って地面を見つめている。
「でも…あれは私の入力ミスじゃ…?」
「あの日最終注文時間が午後5時までになってたんだよ。つまり、5時までなら注文変更を受け付けてくれるわけ。」
真っ直ぐ私を見つめながら一哉さんは説明する。
「…その店側のシステムをこいつは利用したんだ。」
高田さんの顔がどんどん青ざめていく。
「あの日、この部屋が空になった時、忍び込んで水上のパソコンから注文を変えたんだ。」
「で、でもパスワードが…」
「こいつ…前の秘書なんだよ。」
「えっ??でも、私のパスワードを知っているのは、私と緊急時のためにって…社長しか知らないはずじゃ…?」
「そうだ…俺も知ってんだよ。」
…??
申し訳なさそうに見つめる視線。
「水上のパスワードは…俺の手帳に書いてある。外回りの時、手帳は置いて行っていた…」
「まっ、まさか…」
「高田の時も手帳にパスワードを書いたことをこいつは覚えてたんだよ。」
高田さんは手を強く握りしめている。
「そして、こいつは入力を書き換えて会社に不利益をもたらそうとした。」
!!!
そんなこと…目的は…何?
大切な発表会なのに。
「し、社長が…私を必要としないから…」
ポツリと高田さんの声が落ちていく。
「私は…社長が好きだったのに…」
悲しそうに涙をこぼしながら社長を見つめる高田さん。
でも…
「…社長に謝ってください。」
私の口からはいつもより強い声がでた。
自分でも驚いているけど止まらない。
「何よりも会社を大切にしているのは社長です。その大切な会社のイベントを壊そうとするなんて…本当に好きならしないはずです!」
「水上…。」
一哉さんも驚いている様子…。
「好きよっ、好きだからこその嫉妬なの!あなただって今は必要とされてるけれど…いつか捨てられるのよ!!」
ドキっ…
分かってる…1年限りって…
でも…その1年は大切にしたい。
「そんなこと分かってます!いい加減にしてください!社長に謝って。」
私の言葉に息を詰まらせる彼女。
「っ……ごめんなさい……」
言葉と同時に涙が彼女の目から溢れだす。
「…鍵返せ。」
ん??
一哉さんからは思いがけない言葉が出てくる。
「お前が秘書時代に勝手に作ったんだろ?ここの鍵をさっさと返せ。もう二度とここには来るな。」
「っ……!」
高田さんは鍵を地面に投げつけてすごい勢いで部屋を出て行く。
「まっ、待って!!」
追いかけようと走りだす私の腕を一哉さんはがっしりと掴んだ。
「もう、いい。」
「でもっ!それで今日の発表会がっ…」
「お前のせいじゃない。ごめんな…守れなくて…。」
「やめて…一哉さん…私は大丈夫だから…」
自然と涙が頬を伝う。
真相が分かって安堵と
これからの発表会への不安が一気に押し寄せる。
「…大丈夫だ。俺を信じろって言ったろ?」
…
でもこのミスは…大きいもの。
浮かないままの私を見つめる彼。
「菜央。」
名前を呼ばれて思わず顔を上げると
掴まれた腕がグイッと一哉さんに引かれる。
そのまま私は一哉さんの腕の中にスッポリはまった。
「かっ、一哉さん??」
「不安だったな…。ごめん。」
ポツリと耳元で囁く言葉がくすぐったい。
頭に回された手が私の髪を撫でる。
さっきまでの不安が少し落ち着く気がする。