私のパートナー
会が始まって1時間半…。
私は外でソワソワとしている。
じっとしていられるわけない!
ふと、会社のエントランスを見ると
見覚えのある人が座っている。
高田さん…。
私はそっと高田さんに近づいた。
「…高田さん…?」
彼女はハッとして気まずそうに目線をそらす。
「…高田さん…大丈夫ですか…?」
「…私ね…。」
高田さんはゆっくりと語りだす。
「私…あなたが秘書になるまでの1年間、亀沢社長の秘書だった。」
話し出す高田さんの目には涙が溜まっている。
「あの頃が懐かしい…。1年間だけって言われてたけど…心の中ではずっと雇ってくれるんじゃないかって期待してた。」
「高田さん…。」
「でもね、違ったの。1年経ってみたら、君は今日で終わりだって言われて…あまりにも残酷なセリフだった…。」
…。
1年限りの契約…。
それは私も変わらない。
「ずっと、彼のそばにいて…ずっと見てきて…誰よりも彼を知ってると思ってた。今日までも…ずっと思ってたの。」
彼女の目から涙が溢れた。
「でもっ…彼は一度も私を名前で呼んでくれなかった!なのにっ!あなたは…あなたは呼ばれてるじゃない…。」
「えっ?」
「私は彼をずっと社長と呼んできて、彼は私を君とか高田としか呼ばなかった…。でも聞いちゃったのよ…彼があなたを名前で呼んでたのを…」
「高田さん…。それはっ…」
「どんな理由があろうとも私には羨ましかった…。もともと捨てられただけで困らせてやろうと思ったけど、朝…職場に行ったら彼がいるんだもの…。」
「かっ、社長が…職場に?」
「えぇ、怒ってたわ。…でも彼が怒ってたのはあなたに疑いの目が及んだことだった…。会社の利益とかじゃなかったのよ…」
「そ、それは違いますっ!社長は私のことより会社のことを考えて…」
「違わないわ…少なくとも私よりは大切にされてるもの…。私も名前で呼ばれたかった…。」
「高田さん…」
「私にも 有紗って名前があったのにね。……菜央さんでしたっけ…あなた。」
「っ!はい!」
「ごめんね。……私のせいで…大切な発表会を壊して…。彼がどんなに大切にしていたか私も知っていたから…。」
本当は…
高田さんは悪い人なんかじゃない。
そんな気がする。
一哉さんが選んだ人だから…
「まだ発表会は失敗したと思ってません!終わってないですから。」
高田さんは目を見開いている。
「…社長が手配してくれて…間に合う予定です!大丈夫です!高田さん…心配しないでください。」
高田さんに言うように
自分にも言い聞かせる。
大丈夫…
間に合う。
「…。そっか……社長自ら動いたんだ。」
ボソッと呟く彼女はどこか悲しそうだった。
「…本当にごめんなさい。…あなたには…負けたわ。」
そう言って立ち上がり歩き出す彼女。
「あっあのっ!!」
呼び止めても振り向いてくれない。
悲しそうな後ろ姿をただじっと見つめるしかなかった…。