アルマクと幻夜の月
荷を詰め終えると、馬の姿のイフリートに再び跨り、夜空へと飛び上がる。
長い髪を風になびかせて、アスラは王宮を振り返った。
「スルターナの部屋へ行ってくれ」
アスラの言葉に、イフリートはさして驚いた様子もなく、「なぜ」と短く問う。
「このまま何もしないのは癪だ」
「復讐でもする気か」
「いや、」
アスラは静かに首を振る。
「それは、またいつか。今日はただの挨拶だ」
アスラがそう言うと、イフリートはそれ以上なにも訊かずに上空を旋回し、まっすぐにスルターナの部屋へ飛んだ。