アルマクと幻夜の月

*第一夜 3*

「姫様っ! お待ちください姫様!」


金銀宝玉で飾られた豪奢な王宮に、給女の悲痛な叫びが響く。


彼女の遥か前方をうさぎのように素早く走っていくアスラは、

「待てと言われて待つなら、最初から逃げたりしない!」

と給女に怒鳴り返した。


「姫様、本日はベネトナシュの第五王子殿下がいらっしゃるんです!

そんな格好では困ります。どうかお召し替えを……」


「その王子とやらに会わなければいいんだろ!?」


王子に出くわしそうになれば隠れる。

もし出くわしたら、それこそ踊り子のフリでもすればいい。

アスラにとっては、素早く隠れるのも踊るのも簡単なことだ。
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