アルマクと幻夜の月
アスラは馬のたてがみをそっと撫でて、「なあ、イフリート」と語りかけた。
「あたしは確かに王宮を出た。でも、アルマクの姓を捨てたつもりはない。
この国の王女としての矜持は捨てない」
夜空を見上げて、アスラは息を深く吸い込んだ。イフリートに初めて出会った昨夜のことを思い出す。
今日は、星は降らない。
昨日会ったばかりの謎の魔人に、あたしは何を言ってるんだ、と笑いながら、アスラは言葉を紡ぐ。
「おまえの主として命じる。――あたしについて来い」
強気な言葉とは裏腹に、その声は弱々しく。