アルマクと幻夜の月
長い茶金の髪をなびかせてやってきたのは、マリク二世が正妃――スルターナだ。
「なにか用か、正妃殿下」
忌々しげに顔を歪めて睨みつけるアスラに、スルターナは白々しく笑みを浮かべる。
「まったく、姫様も困ったもの。今朝も厨房へ盗みに入ったとか……」
「誰の指図か、厨房の者が食べ物を持ってきてくれないんでね」
「あら、でしたら一言命じればよろしいわ。姫様はマリク様の第一の姫。誰も姫様の命令を邪険になどできません」
「あーそうかい……」
まったく白々しい。
アスラは舌打ちをしたい気分をぐっと堪えた。
それに気づいているのかいないのか、スルターナは右手を頬に添えてわざとらしくため息をつく。