アルマクと幻夜の月
「は? いや、たしかに求婚されたが、それは……」
「ああいう輩には気をつけろ」
アスラの言葉を遮って、イフリートが言う。
「甘い言葉をかけてくるが、その実、目的はおまえ自身じゃなくておまえの地位か、あるいはなにか別の利益だ。騙されるなよ」
真剣な声音で言われて、アスラは何も言えずに黙り込んだ。
イフリートの剣呑な顔に、ほんの一瞬、苦しげな色を見た気がした。
まるで、痛みをこらえるような。
イフリートがどうしてそんな表情をしたのか、アスラにはわからない。
だからせめて安心させてやりたくて、アスラは右腕をそっと持ち上げて、人差し指でイフリートの額を弾く。
「……っ!? いきなり何だ!」
「馬鹿野郎」
驚いて額を押さえるイフリートに、アスラは言った。