アルマクと幻夜の月
目をそらしたいのに、目が離せない。そしてアスラは思い知った。
――自分が王宮の奥で嘆いていた不幸は、どれだけちっぽけなものだったかを。
「イフリート、」
アスラは目の前を行く男の袖を引いて、話しかける。
スラム街全体に漂う空気が重すぎて、誰かと話していないと潰されてしまいそうだった。
「おまえは、ここ以外のスラム街は見たことがあるか」
思いつきでそんなことを尋ねてみると。
「ここはまだ、だいぶましだ」
と、澄ました顔でそう言われて、アスラは目を見張った。
「本当か!?」
「ああ、ましだ。餓死者の死体が転がっていないだけ、な」
当然だ、というような口調で、イフリートは淡々と言った。