アルマクと幻夜の月

(だがこの正妃は少々頭が悪い。早口に長々と話せば、すぐに目を白黒させる)


アスラの思った通り、正妃はぽかんとした顔でアスラを見ていた。


そのスルターナがこれ以上なにか言う前に、アスラは「それに、」と言葉を重ねる。


「あたしは王子には会わない。結婚なんてしない。誰がいつ決めた婚約か知らないが、そんなもの、あたしには関係ない」


そう言って、アスラは身を翻した。

すぐさま給女が「……あ、姫様!」と追いかけてくるが、アスラは「来るな」と給女を制した。


「誰も来るな。あたしに近づくな。これは第一王女の命令だ。誰も、あたしになにかを強要することは許さない」


ジャンビーヤに手をかけて低い声音で言えば、ただの給女がそれ以上アスラになにか言えるわけもない。


言葉を失くした二人をおいて、アスラは豪奢な宮殿の廊下を駆けていった。
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