アルマクと幻夜の月
「母ちゃん……? おまえ、母と暮らしているのか」
「そうだよ。たった一人の家族なんだ。体が弱くて、寝込んでる。俺がいないと食うものがなくて死んじまう」
シンヤがぶっきらぼうに言ったその言葉は、芝居がかった切実さが見られない分、現実味があった。
己の境遇を嘆くふうでもなく、当然のことのように口にしたそれは、彼にとっては実際に当然のようなことなのだろう。
スラムでは珍しくもなんともない、と、シンヤの態度が物語っていた。
「わかった。衛兵には黙っておいてやる。……ていうか、そもそもあたしも衛兵に会うとまずいんだ」
あっさり頷いてそう言ったアスラを、シンヤは不思議そうな顔で見上げる。