アルマクと幻夜の月
もしアスラがランプを探さないと言えば、イフリートはアスラの元から離れていくのだろうか。
彼はやはり、アスラよりもソロモンの形見をとるのか。
「なあ、イフリート」
呼ぶと、イフリートがアスラに視線を向ける。
アスラは口を開き、言葉を声にしかけ、――やめた。
それをイフリートに問う勇気はない。
「空、飛びたい」
だから、代わりにそう言った。
「目が冴えて眠れそうにないから、星を、見たい」
わがままな姫君みたいなことを言っているな、と思うと、可笑しくて思わず笑みが漏れた。
王宮を出たくせに姫気取りか、と。
イフリートは何も言わずに、黙って黒馬の姿になる。
そしてアスラがまたがると、窓から夜空へ飛び立った。
ひんやりとした風が頬を撫でる。
いつもなら心地よいはずのその感覚が、今日はやけに寂しい。
「どうかしたのか」
行く当てもなく夜空を漂いながら、イフリートがふいに言った。