アルマクと幻夜の月
アスラが戸惑いに眉をひそめながら、どこへ行くんだ、と問うと、
「黙っておこうかとも思ったんだが、な」
と、イフリートは答えにならない答えを返す。
訝りながらも進む方向へ目を凝らすと、白い、ひときわ大きな屋敷が見える。
ドーム型の屋根の神殿と、広い道を挟んで向かい合うように建つそれは、領主の屋敷だ。
近づくにつれ、その屋敷の壁際に怪しげな人影が見えた。
遠目にはその顔立ちはわからないが、小柄で細っこい体つきは少年のようだ。
その右手には短剣を持ち、屋敷の角から正面玄関の門番の様子を見ている。
その人影の背後に回って、イフリートは地に降り立った。
突然の蹄の音に驚いて、人影が振り返る。
闇に薄ぼんやりと浮かび上がるその顔を見て、アスラは目を見張った。
「シンヤ……!?」
シンヤの方も口をポカンと開けて、「おまえ、なんでここに……」と、呆然としたように言った。
「それはこっちの台詞だ。そんな短剣なんか持って、どうして領主の屋敷なんかにいるんだよ。まさか、おまえ……」
シンヤの言葉にかぶせるように、アスラはまくしたてる。