アルマクと幻夜の月
だが、そのとき。
「おい、おまえたち、そんなところでこそこそと何してる!」
男の声に、二人ともハッとして振り返った。
領主の屋敷の門番が一人、走ってくるところだった。
「まずい! シンヤ、逃げるぞ!」
シンヤの手を引いて、アスラはイフリートに飛び乗る。
二人が乗ると同時に黒馬のイフリートは空へ舞い上がり、みるみるうちに門番は見えなくなった。
驚きのあまり一言も声を発しないシンヤを連れてイフリートが降り立ったのは、アスラの宿の前だった。
二人を下ろしたとたん馬から人の姿に戻ったイフリートを見て、シンヤは言葉を失ってしまったように口をパクパクさせるだけだった。
それを見て、アスラは苦笑する。
「すまん。驚かせたな」
「え、いや、え? こいつ、なに、人間じゃねぇの?」
「うん、魔人なんだ」
「は? 魔人?」
信じられない、という顔で「魔人?」と繰り返すシンヤに、アスラは「このことは内緒だぞ」と笑ってみせる。