アルマクと幻夜の月
イフリートが言うには、〈イウサール〉はこの空き家を根城にしているようだ。
「よし、じゃあ作戦通りに頼むぞ」
気合い万全に肩を回しながらアスラが言うと。
「……本当にやるのか」
と、いかにも嫌そうな顔でイフリートが問いかける。
「ん、もちろん。そんな顔をするなよ、イフリート」
いつにもましてしわの寄せられたイフリートの眉間を、人差し指でちょんちょんとつつきながら、いやに上機嫌なアスラは言う。
「おまえはただ、全部弾いてくれさえすればいいんだ」
「はじく? なんのこと?」
後ろから問いかけるシンヤに、「内緒」と答えて。
「よし、行こう」
アスラはためらいもなく、立てかけてあるだけの扉をのけた。
「たのもー!……え?」
満面の笑みで叫んだアスラは、しかしすぐにきょとんとした顔をして、「あれ?」と首を傾げた。
酒屋の中には、誰もいなかったのだ。
「イフリート、間違えたのか?」
振り返ったアスラに、「阿呆」と、イフリートが冷ややかに言う。
「地下だ」
短く言ったイフリートの言葉に、なるほど、とアスラは頷いた。