アルマクと幻夜の月
たしかに、こんなボロボロで壁に穴の開いたところにいては容易に人に見つかってしまう。
酒屋なら地下の酒蔵の方が一階よりも隠れやすいだろう。
アスラは二人を引き連れて階段を下り、再び「たのもー!」と叫びながら地下の扉を開く。
地下の暗闇の中、昨日見た顔がそろって振り返った。
「おまえ、昨日の女……と、シンヤ? 何しに来やがった」
低く問うたのは例によってハイサムだ。
「今日は提案があって来たんだ」
突き刺さる敵対の視線に、いやに明るい笑みを返し、アスラは言う。
「提案?」
「そう。おまえたち、領主は好きか?」
「馬鹿言うんじゃねぇ。ヤツのことをよく思ってる人間なんか、スラムにゃいねぇよ」
「だよな。そこで、だ」
人差し指をピンと立てて、アスラはにんまりと笑ってみせる。
「領主に、ちょっといたずらしないか?」
その言葉に、ハイサムの眉がぴくりと動いたのをアスラは見逃さなかった。