アルマクと幻夜の月
「殺したり、傷つけたりはしない。そんなことをすれば死罪だからな。そうじゃなくて、領主にちょっとしたいたずらをしかける。
顔を晒すのはあたしだけで、事が終わった後もおまえたちは罪には問われない、お尋ね者にもならない。
どうだ? あたしと手を組まないか?」
言って、アスラはハイサムに手を差し伸べる。
その声が地下の酒蔵に反響して消えると、後には沈黙だけが残った。
しん、と静まり返った中、戸惑いを孕んだ〈イウサール〉の子供たちの息遣いを感じる。
突き刺すようなハイサムの目を見返して、アスラはじっと、相手の反応を待った。
「…………おもしろそうじゃん」
しばらく考えた後、ハイサムが言った。
とたん、アスラの顔がパッと明るくなる。
「じゃあ、決ま――」
「でも、やだね」
差し伸べられたアスラの手を取ろうと伸ばされたかに見えたハイサムの手は、しかしアスラの掌を軽くはたいて、地下に空虚な音を響かせた。