アルマクと幻夜の月
「おまえたち全員で、あたしを捕まえてみろ。捕まればあたしは素直に退散する。いくらか金を置いてってもいいぞ。でも、捕まらなければ……」
アスラはそこで一度言葉を切った。
〈イウサール〉の少年たちの顔を見まわす瞳が迷うように揺れる。
だがそれも一瞬のことで、すぐに心を決めたように口元を引き結ぶと。
「あたしを〈イウサール〉の頭領にしろ」
薄い笑みを浮かべて、声高らかに宣言した。
少年たちの困惑が、地下の酒蔵に反響する。
誰もが驚いた顔でアスラを見ていた。
ハイサムも、シンヤも、――イフリートさえも。
「おい、」
ずっとアスラの後ろで黙って立っていたイフリートが、慌てたようにアスラに声をかけた。
「頭領とは、どういうことだ。協力を求めるだけではなかったのか」
「んー。そうしようと思ったんだけどさ」
アスラの耳元で声を抑えて言うイフリートに、アスラも小声で返す。
「頭領のほうが、かっこいいだろ?」
にんまり笑ってアスラは言うと、イフリートが何か言う前にハイサムに向き直り、「さあ、どうする?」と、挑発するような笑みを浮かべてみせた。