アルマクと幻夜の月
がむしゃらに向かってくる少年の伸ばした手を、アスラは避けようともしない。
どうするつもりだろうかと見守っていたシンヤとハイサムは、少年の手がアスラを捕らえようとしたその瞬間、息を呑んだ。
アスラは動かない。
動いていないのに、少年は見えない壁にでもぶつかったように、何かに弾かれて尻もちをついた。
「な…………っ!?」
驚いて動きを止めた他の少年たちに、来い、と言うように、アスラは手招きをしてみせる。
少年たちは、今度はアスラの周囲に輪を作り、警戒の表情でゆっくりと距離を詰めてくる。
アスラは動かない。
余裕の表情を浮かべたまま、腕を組んで立っている。
少年たちはじりじりとアスラに近づき、目配せを合図に一斉にアスラに手を伸ばした。
普通に考えれば逃げようがない――が。
「え……!?」
「は?」
「なんだこれ!?」
手を伸ばしたまま、少年たちは一様に戸惑いの声を上げた。
伸ばされた手はどれもギリギリの距離を保って、やはり見えない壁に阻まれた様に止まっている。