アルマクと幻夜の月
少年たちは見えない壁を思いきり叩いてみたり、体当たりをしたりするが、アスラに触れることはどうしてもできない。
何度繰り返しても結果は同じだ。
もはや少年たちに打つ手はなかった。
数人の少年が、当惑した顔でハイサムを振り返った。
それまで静観していたハイサムが難しい顔で近寄り、おもむろに右腕を持ち上げる。
そしてその手を、思い切りアスラを叩く勢いで振り下ろした。
だが、やはりと言うべきか、その手もアスラに触れることなく宙で止まった。
「あんた、魔術でも使えんのか?」
無表情に言ったハイサムに、「神の加護さ。日頃の行いが良いからね」と、アスラは冗談めかして答える。
「反則ではないだろ? ルールは『あたしを捕まえる』ってだけだ。おまえたちはどんな手を使ってもいいし、あたしもどんな手を使ってもかまわない。そうだろ?」
もう負けを認めてくれてもいいんだぞ、と、アスラは言う。
そんなアスラをシンヤは睨みつけると。
「おい、シンヤ。おまえちょっとこっちに来い」
突然、蔵の隅にいるシンヤを呼んだ。