アルマクと幻夜の月
アスラは苦い顔でそう言い、イフリートに目配せした。
とたん、ハイサムの顔がこわばった。
なにか強い力に抗うようにその腕がプルプルと震えて、それでも抗いきれずに、ハイサムはシンヤを捕らえた腕をゆっくりと離した。
言うまでもなく、イフリートがハイサムの腕を操っているのだ。
解放されたシンヤはハイサムから離れ、アスラの後ろに逃げこむ。
「…………参った」
操られた自分の手を、しばらく呆然としたように眺め、ややあってハイサムは言った。
「おまえがここでシンヤを見捨てるようなことをすれば、それは窮地に陥れば俺らを見捨てるかもしれねぇってことだ。
そうなれば絶対におまえにはついて行かないつもりだった。
シンヤを助けて捕まれば、おまえの勝ちでいいと思ってたが……文句なしに俺らの完敗だったな」
すげぇな、おまえ。そう言って、ハイサムは小さく笑った。
そしてアスラの前まで来ると、右手を差し出す。
「おまえなら俺らを見捨てることもねぇだろうし、俺らをかばってアーデルみてぇに死ぬこともねぇだろう。
……改めて、俺はハイサム。おまえは?」
問われたアスラは、「アスラ」と短く答えて、差し出されたハイサムの手を取る。
「よろしく、アスラ。――今日からおまえが、俺らの頭領だ」