アルマクと幻夜の月
すこしつり上がったはっきりした目をパチパチと瞬かせ、アスラはきょろきょろと周囲を見渡す。
誰も彼女には気づかない。
そろり、と、アスラは音もなく足を踏み出した。
腰を低くして、棚や壺の陰を移動していく。
誰にも気づかれないように気配を消して、厨房の一角へ。
目的の壺にたどり着いて、アスラはにやりと笑った。
すらりと長い腕を壺の口に突っ込み、すばやく中身を漁る。
そして壺の中から果物を二つ取ると、ダン、と床を蹴って、アスラは駆け出した。
風のように人々の間を縫ってアスラは走る。
驚いた給女が飛びのいて、料理番が鍋を落としかけた。
人々が反射的にアスラを避けたその隙をしなやかにすり抜け、駆け抜けていく。