アルマクと幻夜の月
「なぁ、」
女の行く手を塞いで、アスラは声をかける。
女はビクリと肩を震わせ、怯えたように一歩引いた。
「あんた、領主の館から出てきたね」
「あ、あなたは……?」
「あたしは〈イウサール〉の頭領のアスラという。あんたに頼みたいことがある」
息を整えながらアスラが言うと、女はさらに警戒を強めてもう一歩下がる。
「盗賊が、わたしに何の用なの? お金ならないわ」
「そんなに警戒しなくても、あんたから何か盗ろうなんて思ってないよ。むしろ、あんたに仕事を頼みたいんだ」
言いながら、アスラは一歩女に近づく。
女は訝しげな表情ではあったが、逃げようとはしなかった。
「仕事って……あなた、わかってるの? わたしは娼婦なのよ?」
女の言葉に、アスラは頷く。
「もちろん、わかってる」
「だったら……」
「次に領主のところへ来るのはいつ?」
唐突なアスラの問いに、女は一瞬返答に詰まったが、ややあって「え、えっと、明日だけど」と、戸惑いつつ答える。