アルマクと幻夜の月


「何か、用でも?」


アスラの問いかけに、衛兵たちのうちの一人が、「アスラ姫殿下ですね?」と、一つ声をかける。


「いかにも」


「おい、」


「あたしがアスラ・アルマクだ」


制止するイフリートにかまわず、アスラは名乗った。


「お迎えにあがりました、姫殿下。王宮へお帰りください。父王様と王妃殿下が心配なさっております」


衛兵の言葉をアスラは鼻で笑って、「嘘をつくならもっとマシな嘘をつくんだな」と、吐き捨てるように言った。


「おとなしくしてくだされば、我々も乱暴なことはいたしません」


じり、と近寄ってくる衛兵たちを真正面から堂々と見つめ返して、アスラは薄く笑った。


「帰って王とスルターナに伝えろ。――こそどろ姫は盗賊団〈イウサール〉の頭領となった、と」


イフリート、と、アスラが小さく声をかけた。

すると大きなため息が聞こえ、次の瞬間、衛兵がバタバタとその場に倒れていく。

三人とも倒れて動かなくなったその後、夜道に聞こえるのは規則正しい寝息の音だけだ。



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