アルマクと幻夜の月
「すごいな。こんなこともできるのか」
感心しながら、アスラは衛兵の懐をさぐる。
きっちり三人分の財布を抜き取って、「さ、帰ろう」と歩き出すアスラについて行きながら、イフリートはもう何度目かになるため息をついた。
「姫のくせになんという手癖の悪さだ」
「魔人と違って、人が生きるためにはどうしたって金がいる。こういうときにコツコツ貯めておくんだよ」
貧しい民からは盗ったりしないから安心しろ、というアスラの言葉に、イフリートは微妙な表情をする。
「……まあいい。それより、なぜ名を明かした? あの娼婦にもそうだが、衛兵にも名を明かすなど、正気の沙汰ではない。王宮に連れ戻されたいか」
厳しい口調で問い詰めるイフリートに、アスラはやれやれ、というように肩をすくめた。
「あたしが〈イウサール〉の頭領だと言えば、どうなる?」
「? ……衛兵がおまえを連れ戻しに来る」
「衛兵はどこにあたしを探しに来る?」
「それは……」
答えかけて、イフリートはしかし黙りこんだ。
驚きに目を見張り、まじまじとアスラを見つめる。