アルマクと幻夜の月
アスラ・アルマク第一王女殿下が、盗賊団〈イウサール〉の頭領になった。
その噂が広まれば、当然、衛兵がアスラを探してマタルの町へやってくる。
噂を広め始めたのは今夜。
広まるのが早くても明日明後日と見て、明日の作戦決行が終われば、アスラがこの町にとどまる理由はない。
つまりは、噂によって追手がマタルの町に集まり、アスラを探して足止めされている頃には、アスラはこの町を発っている、というわけだ。
「それに、〈イウサール〉の頭領が王族となれば、衛兵も領主も〈イウサール〉に手を出しにくくなる。
あたしの名前がどこまで影響を与えられるかは未知数だけど、そう簡単に死罪にはできなくなるだろうな。一石二鳥ってわけだ」
にんまりと笑ってみせるアスラに、イフリートは驚きのあまり何も言えずにいた。
思い知ったのだ。
男勝りで、我が儘で、勝手で、手癖が悪く破天荒なこの姫は、――その実とてつもなく聡明だということを。
イフリートは少し前を行く主人の、細い肩を見た。
揺れる黒髪と、凛とした横顔を。