アルマクと幻夜の月
「構わん。今夜はおまえと過ごそう。ナラーには明日、見舞いの品を届けさせる」
「有難く存じます」
頭を下げたアスラを、領主は手を差し伸べて立たせる。
そしてアスラの羽織っているマントを手際よく脱がせると、アスラの腰に手を添えて引き寄せる。
アスラは首すじの産毛が逆立つような気色悪さをこらえながら、領主をやんわりと押しとどめる。
「ナラー様から領主さまへのお詫びに酒を預かっております。床へ入る前に、飲まれてみてはいかがです? すこし酔いが回っているほうが、きっとお楽しみになれます」
反吐の出そうな台詞を吐いて、アスラは持っていた絹の袋から酒壺を取り出した。
領主が侍女に命じて持ってこさせたガラスの盃に氷を入れ、アラック(蒸留酒)をゆっくりと注ぐ。
アニスの甘い香りがふわりと浮かび、白濁色の酒が盃の中で揺らめいて、 ランプの炎の光を受けてキラキラと輝いた。