アルマクと幻夜の月
バサ、と音を立てて、髪が背に落ちる。
と同時に、コツ、と窓になにか硬いものがぶつかる音がした。
「何だ……?」
領主が眉をひそめ、立ち上がる。
領主が窓に近づく間にも、コツ、コツ、と音は鳴る。
まるで、「開けて」と言っているかのように。
領主がおそるおそる窓を開けると。
「……誰もいない?」
訝しげな声が、静かな部屋にいやに大きく響いた。
すると。
――ドンッ!
今度は何者かが強く扉を叩く音が聞こえた。
驚いてそちらを振り向いた領主の顔は強張っている。
ドンドン、ドンドン、と、音は響き続ける。
「領主様……」と、小声で呼びかけ、アスラはそっと領主の背に隠れようとする。
だが。
「ミ、ミナよ、見てきてくれぬか……」
どうやら正真正銘の下衆だったらしい。
アスラは舌打ちしたい気持ちをぐっとこらえ、泣き出しそうな顔を作ってみせる。
「そんな……、恐ろしゅうございます……っ!」
「うるさいっ! 領民なら領主を守ってみせよ!」