アルマクと幻夜の月
だが、アスラは王女であって王女ではないようなものだ。
――母の病を治す薬も買えぬ、何の権限もないただの娘だ。
(卑しい真似だろうが、母上のためなら……)
迷う余地など、ない。
病で倒れたナズリのために薬を用意しようとする者など、この王宮には自分以外ない。
皆スルターナを恐れてナズリとアスラに近づこうともしない。
国王マリク二世も頼みにはできない。
老いて病に伏せがちになったマリクは、今やスルターナの傀儡でしかない。
アスラは金の水差しを腕に抱えると、自分の服でできる限り覆って、そっと部屋の扉から廊下へ出た。
あたりをそっと伺って、一つ頷く。相変わらず、人通りはない。
静かに、だが素早く廊下を駆けて、アスラは自室を目指した。