アルマクと幻夜の月
「……あんたもすげぇけど、あの無愛想な兄ちゃんが一番すげぇのな」
聞き終えたシンヤは、呆けたような顔でそう言った。
まさにその通りだ。
アスラが考えついたのは、イフリートの魔法ですべてなんとかなったような、穴だらけの作戦。
シンヤには言っていないが、娼婦の呼んだ役人も、館に入った瞬間にイフリートの魔法で眠らせてあるはずだった。
万一どこかで失敗しても、イフリートがなんとかしてくれるだろう、くらいの軽い気持ちでいた。
アスラが無茶苦茶なことをするたびに聞こえる、イフリートのため息が耳に残っている。
苦労をかけている自覚はある。
無茶に付き合わせてしまっている自覚はある。
――けれど、そんなの知ったことか。
「あたしを主人に選んだあいつが悪いんだ」
ふん、と、鼻で笑って、アスラは言った。
そして、唐突にシンヤの鼻をつまむ。
「いッッ……!? 何すんだよ!」
「すこしは気が晴れたか?」
その言葉に、シンヤは一瞬虚を衝かれたようにおし黙った。
その顔がみるみる渋くなる。
気まずそうに目をそらし、アスラをちらりと見て、また目をそらすと。