アルマクと幻夜の月
「心配しなくても、あんたはもう俺らの頭領だ。あんたが辞めるって言うまで変わらない」
だから安心して、行ってこい。
子供らしからぬ、しかしハイサムらしい、すこし苦味のある笑みを浮かべて、ハイサムはそう言った。
アスラも笑って、「ありがとう」とだけ言う。
挨拶はそれだけでいい。アスラは背を向けた。
歩き出そうとしたその背に、「なぁ、」と、かかる声。
振り返ると、ハイサムが先ほどと何も変わらない笑みを浮かべていた。
「王族にもマシな奴っているんだな」
「……なんだ。気づかれてたか」
困ったように笑って、アスラは「じゃあな」と言うと、背を向けて今度こそ歩きだした。
ハイサムももう止めようとしない。
マタルの町の中を、ハイサムから遠ざかるように歩いて行き、やがて朝もやが晴れ日が昇りかけた頃、アスラは立ち止まった。