アルマクと幻夜の月
「イフリート」
名を呼ぶだけで、イフリートは頷いて馬に姿を変える。
「次はどこに行く?」
イフリートが問うと、アスラは迷ったそぶりもなく、「ビッラウラへ」と答えた。
「ビッラウラは水晶の採掘で栄えている町なんだろ? マタルは貧しい町だったから、栄えている町も見てみたい。その差がどれほどのものなのか知りたい」
アスラの言葉に、イフリートはただ頷いた。
黒馬に跨がろうと、アスラが馬の背に手を置いた、そのとき。
「見つけたー!」
少年の高い声が響いて、アスラはぎょっとして振り返った。
立ち並ぶ建物の角から今しがた出てきたであろうシンヤが、アスラめがけて走ってくるところだった。
「あんた、俺に黙って行こうとしただろ!」
「ちょ、シンヤ声がでかい!」