アルマクと幻夜の月
「イフリート、一度降りろ!」
空へどんどん上がっていくイフリートにアスラが怒鳴るが、イフリートは「できない」と答える。
「町の人がちらほら起き出している」
「あー、もう! シンヤ、つかまれ!」
なんとかシンヤを引き上げて、アスラは深い深いため息をついた。
人目があるから町には降りられない。
町を出た記録などあるわけないから、一度城壁の外に出てしまえば、シンヤは検問を通って町に戻ることはできない。
「どうしてもついて来るのか」
いかにも不満そうな顔でアスラが問うと、シンヤは力いっぱい頷いた。
「俺はマタルのスラムの景色しか知らないから、他の町を見てみたいんだ。自分の食料とかの世話は自分でするからさ、頼むよ」
シンヤがそう言う間にも、イフリートはもう町の人々が小さな点にしか見えないほど高く飛び、マタルの城壁を超えてしまっている。