アルマクと幻夜の月
「仕方ない。……後悔しても知らないからな」
イフリートの癖が移ったかのように、もう一度深いため息をついて、アスラは言った。
シンヤはよっぽど嬉しかったのだろうか、年相応のキラキラした笑顔を満面に浮かべる。
「よっしゃぁ! なぁ、姐(あね)さんって呼んでいいか?」
「いや、それはやめろ」
「よろしくな、姐さん」
「やめろってば!」
イフリートに乗って城壁を超えたら、あとは歩きの旅だ。
ゆったりと下降を始めた黒馬の背でぎゃいぎゃい騒ぐ二人を、
イフリートが「おい、体力を無駄使いするな」とたしなめるが、二人の騒がしさにかき消されてしまった。
砂の大地が近づいてくる。
新たな仲間を迎え、新たな旅が始まる。
地面に降り立ったところで、アスラは黒馬から飛び降りた。
その顔は、王宮を出たときよりもずいぶん明るい。
東を向いた、アスラの横顔が言った。
「さ、行こうか」
水晶の町、ビッラウラへ。
〜第二夜 fin〜