アルマクと幻夜の月
簡単な昼食を宿の主人に頼み、アスラは何を話すでもなく、
シンヤが口を開こうとするとそれを手で制して、頬杖をついてじっとしている。
ぼうっとしているように見えて、その瞳は鋭い。
酒屋の喧騒にじっと耳を澄まし、情報を拾おうとしていた。
おー、どうだ、怪我の調子は。
まぁ、ぼちぼちだな。まだしばらくは動けんが。
昨日、アズラク水晶窟でまた人死にがあったって?
なんでも、水晶窟でサイードが、変な女を見たってよ。
領主様が派遣した兵士もみんな死体で帰ってきたってな。
それより、失踪したアスラ姫はどうなったのかねぇ。
失踪? なんだそれ、初耳だぞ。
まだ噂に過ぎねぇんだろ。滅多なこと言うもんじゃねぇ。
「その噂、本当なのか?」
酒を片手に噂話に花を咲かせる男たちに、声をかけたのはアスラ自身だ。
「お? どうした、別嬪の姉ちゃん。アスラ姫の話に興味があるのか?」