アルマクと幻夜の月
「まぁ、少し。今、偶然聞こえたから気になって」
アスラは肩をすくめてそう言った。
こういうとき、王宮にいたとき頑なに公務を避けていたおかげで、民にも領主にさえも顔を知られていないことが、本当にありがたくなる。
「で、アスラ姫が消えたって? 誘拐かなにか?」
アスラが問うと、男たちのうちの一人、つい先ほどアスラ失踪の噂を持ち出した男が首を振った。
「それが、違ぇんだな。なんでも、ジャウハラの夜に、馬に乗って飛んでったって」
「…………なんだそれ」
「嘘じゃねぇよ! 実際に、ジャウハラの夜に集まった大勢が見てんだ」
実際に大勢の人が見ていたから、そこは多くの人に知れ渡っているだろうと思っていた。
アスラが聞きたいのはそこじゃない。
「飛んで……、どこへ?」
「よくぞ聞いてくれた! それがなぁ、また驚きなんだ。マタルへ行って、盗賊団の頭になったんだ!」