アルマクと幻夜の月
「お釣りはあの人たちの飲み代に加えて。面白い話を聞かせてくれたお代として、な」
そう言って男たちを振り返ると、話を聞かせてくれた男が、両手の指にくちびるをつけてそれをアスラに投げる動作をした。
「あんがとよ、姉ちゃん! 愛してるぜー!」
「気持ちは嬉しいけど接吻は要らないよ。また面白い話があったら教えてくれ。じゃあな」
ひらひらと手を振って、アスラは外へ出ようと歩き出した。
「姐さんの狙い通り、アスラ姫がマタルで盗賊になった噂、ちゃんと流れてるね」
「そうだな」
「なんか、びっくりするほど思い通りだよなぁ。姐さんって実はかしこい人?」
「はは。やっと気付いたか」
込み合った店内を進みながら、小さな含み笑いを洩らす。
万事狙い通りに進んだことに、ではない。
自身のあまりの荒唐無稽さに、だ。