アルマクと幻夜の月

*第三夜 2*


「いやぁ、アスラ姫はなんだか、前会った時よりもたくましくなったねぇ」


殴られた左頬をさすりながらへらへら笑うキアンを睨みつけて、アスラは舌打ちを一つこぼした。


酒場の男たちになんとか言い訳してから、アスラの部屋の隣だったキアンの部屋に乗り込んで説教をしたのがつい先刻。


素性が知れるから「姫」を付けるな、と言うアスラに、キアンが「いきなり呼び捨てにしてほしいなんて、君もなかなか積極的だなぁ」と笑って、もう一発殴られたところだ。


「まさかまた会うとは思わなかったよ。おまえ、いつまでこの国にいるつもりなんだ?」


さっさと出ていけ、とでも言いたげなしかめっ面をキアンに向けて、アスラは言った。


「まだしばらくは出て行かないよ。君を手に入れるまでは、ね」


「あーそうかい。その日は永遠に来ない。諦めて帰れ」


アスラは嫌悪もあらわに、まるで獣でも追い払うようにひらひらと手を振る。

その失礼極まりない態度にも、キアンは怒りなど欠片も見せずにへらへらと笑っている。



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