アルマクと幻夜の月
「リッカ、僕は恋愛においては基本的には主導権を握る側なんだけど、アスラ姫に出会って新境地を開拓してしまったみたいだ」
「気持ち悪いですよキアン様」
キアンのそばに控えた少女は、まったく表情を変えずにそう言った。
鈴のなるような細い声は想像通りだったが、この愛らしい少女がそのようなことを言うとはおもわず、アスラはわずかに目を見張った。
リッカは小さなため息をひとつ吐くと、シンヤを見つめ、アスラに視線を移し、そしてそれよりもずっと長い時間をかけて、イフリートを見つめた。
金の、子猫の瞳のようにくりくりとして大きな瞳は、なぜだか年頃の少女の持つはつらつとした輝きよりもむしろ、
人一倍長く生きた老人の持つ叡智の輝きが宿っている気が、アスラにはした。
じっとイフリートを見つめていたリッカはふいにアスラに視線を戻し、「アスラ姫様」と、鈴の音で呼ぶ。
「……何だ」